令和5年度首里城基金修理事業について

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令和3年度より本格的に被災した美術工芸品の修理を開始し、令和5年度までに黒漆日輪鳳凰瑞雲点斜格子丸櫃など漆器45点、虎之図・闘鶏図など絵画5点、緑釉瓶など陶器18点の修理が完了しました。複数年に渡る修理が必要な美術工芸品もあり、今後も長く修理が行われます。修理に際しては、蛍光X線調査や紙の分析など科学調査も並行して行い、修理方法の検討などが行われています。
また安定的な修理事業を行っていくため、人材育成を実施しており、県内外の文化財修理、特に漆器修理の技術者に技術共有のための研修を行っております。

1)漆器

  • 名称:黒漆牡丹七宝繋沈金食籠(3年計画の3年目)
  • 法量:高さ38.9cm 径34.2cm
  • 概要
    木製円形、印籠蓋造り、二段重ねの食籠です。甲面が一段高く、甲盛を設けています。肩や尻にやや丸みを取り、高台を付し、外側は黒漆塗られています。甲面には牡丹を描き、地文として七宝繋ぎ文様を隙間なく埋め尽くされています。周囲には縦横線と界線を廻らしています。肩、蓋鬘、各側面、尻、高台側面には甲面同様の牡丹文様、各段の縁には界線、高台下部には界線と山形波を廻らし、それぞれを沈金で表しています。蓋および身上下段の内側は朱漆塗り、身上段の底裏面は黒漆が塗られています。蓋鬘と各段合口部分は玉縁と箔を施し、身下段の見込に1枚、高台底裏面に2枚、貼紙があります。


黒漆牡丹七宝繋沈金食籠(修理後)

  • 修理
    火災の影響及びこれまでの経年劣化により全体に塗膜の剥離や亀裂が生じていました。特に上面や側面の沈金文様の線に沿って塗膜の剥離が生じ、一部は欠損するなど、非常に危険な状態でした。また、上面には貼りついた薄葉紙を取り除いた箇所が跡になって残り、紙の繊維が付着していました。劣化が非常に激しく複数年にわたる修理が必要なため、令和3年度から行われており、最終年度の令和5年度は、損傷部の補填、漆塗膜の補強を行いました。また、損傷部から資料の構造を観察できる箇所が見受けられた為、膠を含侵させて補強する処置に留め、現状保存することとしました。
刻苧を施した後に下地を充填する
刻苧を施した後に下地を充填する

下地の硬化後、砥石等で表面の形状を整える

塗膜際の僅かな段差に錆漆を施す
劣化した漆塗膜の補強のため漆固めを行う
劣化した漆塗膜の補強のため漆固めを行う


  • 名称:No.193 黒漆雲龍螺鈿盆(2年計画の2年目)
  • 法量:高さ4.1cm 径34.9cm
  • 概要
    総体黒漆塗の湾曲した鍔をもつ円形の大盆で低い高台を付しています。17世紀から18世紀にかけて中国への進貢品として盛んに制作された様式の盆です。見込み部分には火焔宝珠を中心にして五つの爪を持つ双龍と雲を、鍔には亀甲花菱紋をそれぞれ螺鈿で表しています。

黒漆雲龍螺鈿盆(修理後)
黒漆雲龍螺鈿盆(修理後)

  • 修理
    火災の影響により資料から滲出したと考えられる物質が斑点状のシミとなって塗膜表面に現れる症状が確認されました。螺鈿部分は、気泡が多く、極めて小さな隆起や波打つ貝など貝の劣化が見られました。器物には木地亀裂や塗膜剥落箇所もあり、木地が露出している箇所もありました。修理作業では、1年次にクリーニング、螺鈿塗膜の接着、2年次には損傷部の補填、漆塗膜の補強を行いました。
斑点状のシミが付着していた
斑点状のシミが付着していた
クリーニングで埃などの付着物を取り除く
クリーニングで斑点状のシミの除去を試みる
塗膜が浮いている箇所に漆を含ませる
塗膜欠損部に刻苧を充填する
塗膜の圧着を行う
刻苧充填後下地を施す

その他(令和5年度修理)

資料名 修理施工者
No.058  騎馬人物堆彩盒子 目白漆芸文化財研究所
No.078  朱漆鳳凰雲椿沈金硯箱四段重 目白漆芸文化財研究所
No.196  朱漆山水人物箔絵丸櫃 目白漆芸文化財研究所
No.228 〇黒漆牡丹七宝繋沈金食籠 目白漆芸文化財研究所
No.340  黒漆山水楼閣螺鈿菓子器 目白漆芸文化財研究所
No.353  黒漆花鳥密陀絵漆絵盆 目白漆芸文化財研究所
No.505  潤塗花鳥密陀絵箔絵四ツ椀 目白漆芸文化財研究所
No.683  朱漆牡丹紋沈金平卓 目白漆芸文化財研究所
No.835  黒漆雲龍文螺鈿盆 目白漆芸文化財研究所
No.052  黒漆牡丹唐草螺鈿提重 琉球漆工藝舎
No.062  黒漆火焔双龍瑞雲螺鈿盆 琉球漆工藝舎
No.193  黒漆雲龍螺鈿盆 琉球漆工藝舎
No.277  黒漆獅子牡丹螺鈿印籠 琉球漆工藝舎
No.296  緑漆牡丹唐草石畳沈金膳 琉球漆工藝舎
No.336  黒漆雲龍螺鈿盆 琉球漆工藝舎
〇は沖縄県指定文化財を示す。
 

2)絵画

  • 名称:No.615 花鳥図(牡丹尾長鳥図)
  • 法量:丈 191.5cm 幅 57.6cm
  • 概要
    琉球王国の絵師 毛長禧(佐渡山安健 1806-65)の作品です。大輪の牡丹、岩にとまる尾長鳥、下部にアヤメ科のイチハツが彩色で精緻に描かれています。右上部には「毛長禧」の落款印章が押されています。

花鳥図(牡丹尾長鳥図)
花鳥図(牡丹尾長鳥図)

  • 修理
    修復前の作品は、前回の修理から時代を経ており、本紙全体に大小の折れが生じていました。これらの損傷に加え、図様に施された青色・緑色絵具の酸化劣化に伴う「緑青焼け」の影響により本紙料紙が部分的に硬く脆くなり、新たな折れ、破れの要因となっていました。
    今回の修復作業では、絵具に剥落止めを施し、装丁を解体した後、本紙のクリーニングにより汚れ、染みを可能な限り除去しました。
膠水溶液を用い、絵具の剥落止めを行った
膠水溶液を用い、絵具の剥落止めを行った
旧肌裏紙の除去
肌裏紙の除去
折れが生じていた箇所に折れ伏せを入れる
欠損箇所の補修
総裏打ち
総裏打ちを行った

その他(令和5年度修理)

資料名 修理施工者
No.615 花鳥図(牡丹尾長鳥図) 墨仙堂
No.608 孫杕(ソンテイ) 山茶花図 石川堂

3)陶器

  • 名称:琉球色々盃(泡盛古酒用の盃)
  • 法量:口径 4.7cm 高 2.6cm(壺屋焼「藍花小(えーばなぐゎー)」)ほか
  • 概要
    泡盛の貴重な古酒(クース)を飲む極小の盃です。琉球王国や清朝中国で作られた合計8点の盃は、花やかな古酒文化を伝える貴重な資料です。青い点々の「藍花小」は特に珍重された文様で、壺屋焼の1点と中国清代の2点があります。

琉球色々盃(泡盛古酒用の盃)
琉球色々盃(泡盛古酒用の盃)

  • 修理
    火災の影響による汚れと欠損が認められたため、洗浄~カラーフィル技法による欠損箇所の修理を行いました。カラーフィル技法は現代英国で発展した陶磁器修理技術です。金継ぎと異なり、色合わせしたエポキシ樹脂を用いるため、損傷前のイメージの復元に特に有効です。可逆性に富むエポキシ樹脂は、再修理も比較的に容易であり、陶磁器本体への負担を最小限に抑える長所を持っています。
慎重に洗浄し、破損個所を確認。画像は「藍花小(壺屋焼)」。
慎重に洗浄し、破損個所を確認。画像は「藍花小(壺屋焼)」。
「藍花小(清朝期)」の状態確認。
破片の洗浄
補修箇所に合わせて作った色の確認。
補修箇所に合わせて作った色の確認。
色合わせしたエポキシ樹脂を補修箇所に細筆で差す。
色合わせしたエポキシ樹脂を補修箇所に細筆で差す。
補修箇所を研磨して仕上げる。
補修箇所を研磨して仕上げる。

その他(令和5年度修理)

資料名 修理施工者
No.727 琉球色々盃(泡盛古酒用盃8点) 佐野智恵子(工房いにしへ)
No.718 多聞天立像    〃
No.731 焼締四耳壺    〃
No.730 白水盆    〃

4)今後について

令和6年度については、漆器12件、絵画3件、陶器1件の修理(昨年度からの継続を含む)を行います。被災した美術工芸品の修理については、修理方法の検討を行いながらとなるため、今後も長期に渡る作業となります。

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