令和4年度首里城基金修理事業について

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令和3年度より本格的に被災した美術工芸品の修理を開始し、令和4年度までに黒漆日輪鳳凰瑞雲点斜格子丸櫃など漆器12点、虎之図・闘鶏図など絵画5点、緑釉瓶など陶器5点の修理が完了しました。複数年に渡る修理が必要な美術工芸品もあり、今後も長く修理が行われます。修理に際しては、蛍光X線調査や紙の分析など科学調査も並行して行い、修理方法の検討などが行われています。
また安定的な修理事業を行っていくため、人材育成を実施しており、県内外の文化財修理、特に漆器修理の技術者に技術共有のための研修を行っております。

1)漆器

  • 名称:黒漆牡丹七宝繋沈金食籠(3年計画の2年目)
  • 法量:高さ38.9cm 径34.2cm
  • 概要
    木製円形、印籠蓋造り、二段重ねの食籠。甲面が一段高く、甲盛を設けています。肩や尻にやや丸みを取り、高台を付し、外側は黒漆塗り。甲面には牡丹を描き、地文として七宝繋ぎ文様を隙間なく埋め尽くします。周囲に縦横線と界線を廻らします。肩、蓋鬘、各側面、尻、高台側面には甲面同様の牡丹文様を配します。各段の縁には界線、高台下部には界線と山形波を廻らし、それぞれを沈金で表しています。蓋および身上下段の内側は朱漆塗り、身上段の底裏面は黒漆塗り。蓋鬘と各段合口部分は玉縁と箔を施し、身下段の見込に1枚、高台底裏面に2枚、貼紙があります。

黒漆牡丹七宝繋沈金食籠(修理前)
黒漆牡丹七宝繋沈金食籠(修理前)

  • 修理
    火災の影響及びこれまでの経年劣化により全体に塗膜の剥離や亀裂が生じています。特に上面や側面の沈金文様の線に沿って塗膜の剥離が生じ、一部は欠損するなど、非常に危険な状態でした。また、上面には貼りついた薄葉紙を取り除いた跡に、紙の繊維が残っていました。劣化が非常に大きく、複数年にわたる修理が必要なため、令和4年度は、膠と漆による塗膜押さえ作業と亀裂や木地が露出している箇所への刻苧の充填作業を行っています。
亀裂の際に膠を含ませ、塗膜の圧着を行う
亀裂の際に膠を含ませ、塗膜の圧着を行う
木地が露出している箇所に漆を含ませる
木地が露出している箇所に漆を含ませる
亀裂の際に漆を含ませ、Gクランプで塗膜の圧着を行う
亀裂の際に漆を含ませ、Gクランプで塗膜の圧着を行う
亀裂の際に刻苧を充填する作業
亀裂の際に刻苧を充填する作業
木地が露出している箇所への刻苧を充填する作業
木地が露出している箇所への刻苧を充填する作業


  • 名称:黒漆鳳凰文沈金網代八角鉢
  • 法量:高さ13.5cm 径35.0cm
  • 概要
    木製漆塗りの八角鉢。内側は茶褐色、口縁と高台の内側は黒漆塗り、側面は朱漆塗り。内側は見込みに鳳凰文、側面に瑞雲を表し、口縁に七宝文、および鳳凰尾羽をそれぞれ沈金で描いています。外縁側面の上下部に、金属線を廻らし、各面に窓枠を設け、窓枠内には竹を編んで亀甲文透かしを表しています。胴の各側面には、入隅の窓枠内に網代で紗綾形文様を施し、外縁と胴の各窓枠には、金箔を施した玉縁を設けています。高台の各側面には四種の花文を浮き彫りし、裾部に金属線を廻らしています。

黒漆鳳凰文沈金網代八角鉢(修理前)
黒漆鳳凰文沈金網代八角鉢(修理前)

  • 修理
    総体に経年による漆塗膜の劣化や亀裂、剥離が生じています。特に木地や網代を接合している部分に多数の亀裂が生じ、漆塗膜の浮きや一部では木地が割れているなど危険な状態でした。作業に入る前に剥落の恐れがある損傷個所は養生を行って作業を進めています。今回の修理では、塗膜のクリーニング、塗膜押さえ作業、木地と網代の接合部分や塗膜が欠損した箇所に刻苧の充填作業を行っています。
損傷個所に養生を行う
損傷個所に養生を行う
クリーニングで埃などの付着物を取り除く
クリーニングで埃などの付着物を取り除く
塗膜が浮いている箇所に漆を含ませる
塗膜が浮いている箇所に漆を含ませる
塗膜の圧着を行う
塗膜の圧着を行う
塗膜の欠損箇所に刻苧を充填
塗膜の欠損箇所に刻苧を充填

その他(令和4年度修理)

  • ①黒漆葡萄栗鼠螺鈿箔絵八角盆
  • ②朱漆鳳凰雲椿沈金硯箱四段重
  • ③黒漆山水楼閣螺鈿菓子器
  • ④朱漆三ツ巴紋盆
  • ⑤潤塗花鳥密陀絵箔絵四ツ椀
  • ⑥黒漆雲龍文螺鈿盆
  • ⑦黒漆牡丹文七宝繋沈金足付盆
  • ⑧朱漆楼閣人物箔絵菊花形食籠
  • ⑨朱漆巴紋鳳凰七宝繋沈金丸櫃
  • ⑩朱漆山水楼閣人物箔絵菊花形合子
  • ⑪黒漆雲龍螺鈿盆
  • ⑫黒漆日輪鳳凰瑞雲点斜格子沈金丸櫃

2)絵画

  • 名称:闘鶏図(闘鶏花房之図)
  • 法量:丈137.6cm 幅73.2cm(本紙)
  • 概要
    首里王府の絵師・毛長禧(1806~1865)が1843年に描いたと考えられています。表具の裂は、王国時代のものではありませんが、美術史家・鎌倉芳太郎が大正年間に調査した時のものと判明しました。

闘鶏図「闘鶏花房之図」(修理後)
闘鶏図「闘鶏花房之図」(修理後)

  • 修理
    当財団収蔵資料のうち「闘鶏図」が修理品を含めて3点あり、三幅対として同一の桐箱に収納されていました。3点とも劣化損傷が著しく、早期の修理が必要であったため令和2年度から「闘鶏図」3点の修理事業が開始されました。本資料の修理はその3点目になります。修理は、作品全体に暴れ・糊浮き、一部の肌裏紙に施された補彩など、本紙全体に視覚的な違和感が生じていたため、解体修理を行う事となりました。本紙の汚れの除去・損傷箇所への補修・補彩を行い、折れの箇所には折れ伏せ紙を入れて表装を行っています。また過去の修理の痕跡を確認し、表装裂の付け回しを制作当初の位置へ修正しました。
表装裂の除去
表装裂の除去
肌裏紙の除去
肌裏紙の除去
欠損箇所の補修
欠損箇所の補修
総裏打ち
総裏打ち
補彩
補彩

その他(令和4年度修理)

  • ①中山門図
  • ②虎之図

3)陶器(令和4年度修理)

  • 名称:赤絵鉢
  • 法量:全高7.7cm 口径19.9cm 底径8.2cm
  • 概要
    近代初頭に壺屋で作られたと考えられています。壺屋焼の赤絵の歴史は未解明の部分が多く、本資料も近代初頭の赤絵作品として重要な位置を占めています。また赤玉草花文様は壺屋焼としては希少な作例であり、造形性・描写力ともにすぐれた名品です。

「赤絵鉢」(修理後)
「赤絵鉢」(修理後)

  • 修理
    当財団収蔵資料における陶磁器資料は量的にはそれほど多くありませんが、琉球王国時代~近代にかけての琉球陶器類や輸入陶磁器類の陶磁史的な価値が高く、また未調査の部分も少なくありません。本資料「赤絵鉢」も時代は近代初頭ながら琉球王国時代と近代を結ぶ作品として重要です。修理に際しては①破片の収集、②破片の洗浄、③破片の組み合わせ・接合面の確認、④破片の接合という手順で行われました。修理技法は近代英国で発展したカラーフィル技法です。カラーフィル技法は伝統的な金継ぎ技法等と異なり、修復・接合部分が目立たないようにエポキシ系樹脂を用います。また接合面の整形を最小限に留めることができ、さらに再修理の解体の際にも原資料に与える負担が最小限で済むことから、最も文化財修理に適した技法と評価されています。今年度の修理では破損部分・欠損部分を元通りに修復するのではなく、「被災資料」として展示・研究などに供することを念頭に、接合部分や欠損部分をパテによる色合わせ・充填などは行わないこととしました。カラーフィル技法による修理を行うことにより、今後、本作品を「被災資料」ではなく「美術工芸作品」として再修理することも可能です。
収集された破片
収集された破片
破片の洗浄
破片の洗浄
破片(洗浄前)
破片(洗浄前)
破片(洗浄後)
破片(洗浄後)
破片を並べて確認:わずかな欠損を除きほぼ全ての破片が揃った
破片を並べて確認:わずかな欠損を除きほぼ全ての破片が揃った
破片の接合(1):エポキシ系樹脂を用いる
破片の接合(1):エポキシ系樹脂を用いる
破片の接合(2):慎重に接合
破片の接合(2):慎重に接合
破片の接合(3):テープで押さえて定着
破片の接合(3):テープで押さえて定着
破片の接合(4):接合部分
破片の接合(4):接合部分

その他(令和4年度修理)

  • ①多聞天立像(台座のみ):接合等修理
  • ②緑釉瓶:接合等修理
  • ③緑釉嘉瓶:接合等修理
  • ④巴紋壺:接合等修理

4)今後について

令和5年度については、昨年度から継続している漆器8点に加え、10点の修理に着手します。陶器についても同様に昨年度から継続している11点の修理を行います。被災した美術工芸品の修理については、修理方法の検討を行いながらとなるため、今後も長期に渡る作業となります。

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