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普天間権現 (ふてぃまごんげ)

むかし、首里の桃原(トウバル)という村の旧家に、二人の娘がいました。
姉娘のグジーは、世にもまれな美しさという評判でした。
グジーは、ふしぎな娘でした。
ある時、グジーが機織りをしながら居眠りをしていました。
母親は、それを見て行儀が悪いと思って起してやりました。
グジーは母親に声をかけられたとたん、ハッと我にかえりました。
そして、
「残念なことをしましたお母さん。お父さんの船が嵐にあって沈みそうになったので、片手で兄さんを抱き、もう一方の手でお父さんを助けようとしたのですが、目を覚まして手を離してしまったので、お父さんは助けることができませんでした」
「お前は夢を見て、そんなことを言うんだ」
と母親は信じませんでした。
ところが、旅にでた兄は無事に帰ってきましたが、父親は嵐の海にのまれて帰っては来ませんでした。
「ああ!お前が言ったのは本当だった」
と母親はグジーを起こしてしまったことをとても後悔しました。
そのあとグジーは、次々に寄せられる縁談を断って家に引き籠り、糸を紡いだり機織りばかりするようになりました。
それでいつの間にか、若者たちがグジーの姿を一目でも見ようと、家の中を覗くようになりました。
グジーは、それを知って庭先にさえ出なくなりました。
若者たちは知恵を絞ったあげく、妹の夫に頼むことにしました。妹の夫が、
「私でさえ、顔を見たことがない」
というと、
「そんなばかなことがあるもんか。それなら美しい娘だなんて大うそで、醜い女だとふれ歩いてやるからな」
というので、夫は妻に相談しました。

スクロール

妻は実家に出かけて行き、いつものように機織りをしているグジーと話し込んでいましたが、夫がやってくる頃になると、池に水を汲みにといって庭に出ました。
それからどうしたはずみか池に落ち、大声で助けを求めました。
するとすぐに家の中から、グジーが飛び出してきて池に落ちた妹を助けました。
その時、夫の後をつけて来た若者が叫びました。
「見たぞ。とうとう見たぞ」
グジーは、その声を聞くと、はっと顔色を変え、そのまま家を飛び出しました。
後には、グジーが口にくわえていた糸が続いていました。
家の人たちが、その糸をたどって行くと、糸は桃原から儀保へと続いており、クシヌチャ坂では、娘の後ろ姿が見えましたが、じきにカミヌ坂という坂の附近で見えなくなりました。
けれども、グジーが通った道の両側に生えている草や木は、みんな頭を下さげるようになびいていました。
ただ松の木とシプ草というオオバコだけは頭を下げていませんでしたので、グジーの乳母が怒ってシプ草を踏みつけたので、シプ草は平たくなり、また松もこの時のたたりで、松の根株からは、若芽が出なくなりました。
糸は普天間にある洞窟まで続いていました。
後を追ってきた人たちは、洞窟に入ってグジーを捜しましたが、姿は見つかりませんでした。
母親は、
「グジーよ、グジー、どうか一目だけでいいから、姿を見せてくれ!」
と、一心不乱に祈りました。
すると、ある夜、グジーが夢枕に現れ、
「お母さん。どうか私の事はもう捜さないでください。私は神の子です。千人万人、御万人(ウマンチュ)を救うため、お母さんのお腹を借りて生まれてきたのです。今までありがとうございました。どうぞ心安らかにお暮しください。これからは私がお守りいたします」
といったそうです。
そして、グジーはこの洞窟に祀られ、人々から普天満権現(ふてぃまごんげ)と呼ばれるようになりました。



監修:NPO沖縄伝承話資料センター

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