耳切り坊主 (みみちりぼうず)
昔むかし、首里に黒金座主(くろかねざぬし)という坊さんがいました。
大男で色が黒かったので、黒金座主と呼ばれていました。
黒金座主はお坊さんの修行をするため唐の国にいき、人を惑わす妖術も習ってきました。
そしてお寺で、三世相といわれる占いの仕事も始めました。
そのため、女の人達が黒金座主の所に通ってくるようになりました。
ところが、黒金座主は唐の国で覚えた妖術をつかって、寺にくる女の人を次々とだまして、悪い事ばかりするようになりました。
この噂を聞いた王さまは、大村御殿に住んでいる弟の北谷王子(チャタンオウジ)を呼び、
「黒金座主を懲らしめてくれ」と命じました。
北谷王子は、黒金座主を呼び、
「碁打ち名人のお前と、勝負がしたい」
といいました。そして、
「ただ打つだけでは面白くないので、賭けをしよう。
黒金座主よ、お前が負けた時には、その耳を切り落としてよいか」
「では、北谷王子、あなたが負けた時には、あなたの片かしら(まげ)をいただきましょう」
といって、ふたりは碁を打ち始めました。
勝負は、北谷王子が勝ちました。
すると、黒金座主は北谷王子に妖術をかけ、隠し持っていた小刀で北谷王子を殺そうとしました。
けれども、側においてあった刀で身を守り、約束通り黒金座主の耳を切り落とし、成敗してしまいました。
黒金座主は、
「北谷王子よ、お前の子孫を絶やしてやる」
といって、死にました。
それから大村御殿の角に、耳を切られた黒金座主の幽霊が出ると言う噂がたちました。
その頃、北谷王子に男の子が生まれましたが、生まれてすぐに死んでしまい、男の子は育ちませんでした。
そのことが続いたので人々は、黒金座主のたたりだと噂しました。
ある時、また男の子が生れまれました。
赤ん坊を取り上げた乳母が、今度は、「うふいなぐ(立派な女の子)が生まれました」と告げました。
うふいなぐと告げられた赤ん坊は、命を取られずにすくすくと育ちました。
それで、大村御殿では男の子が生まれても、男の子と告げずに、「うふいなぐが生まれた」と言うようになりました。
それから、北谷王子は黒金座主の霊を丁寧に弔ったので、大村御殿の角に立つ幽霊の噂は、いつのまにか消えてしまいました。
その後から周りの人達も、男の子が魔物に命を取られずに育つようにと、男の子が生まれても、「うふいなぐ(立派な女の子)が生まれた」と言うようになりました。
そして、こんな子守歌が歌われるようになったんだよ。
大村(ウフムラ)御殿(ウドゥン)ぬ角(カドゥ)なかい
[大村御殿の角に]
耳切り(ミミチ)坊主(ボウジ)ぬ立っちょんどう
[耳を切られた坊さんが立っているよ]
いくたい いくたい 立ちょうが
[何人 何人 立っているの]
三(ミ)ちゃい 四(ユッ)たい 立ちょんど
[三人 四人 立っているよ]
いらなん しーぐん 持(ムッ)ちょんど
[鎌も 小刀も 持っているよ]
泣ちゅる 童(ワラビ)や 耳ぐすぐす
[泣く子は 耳をぐすぐす 切られるよ]
へいよう へいよう 泣くなよ
[さあさあ さあさあ 泣かないで]
へいよう へいよう 泣くなよ
[さあさあ さあさあ 泣かないで]
監修:NPO沖縄伝承話資料センター