![](/shurijo/shuri-aruki/folklore/assets_c/2015/04/sikina1-thumb-1500xauto-1017.jpg)
識名の遺念火 (しきなのいねんび)
昔、識名(シキナ)にとても仲の良い若い夫婦がいた。
妻は、毎日豆腐を作って首里の市場に売りに行っていた。
妻が夕方になっても帰らないと夫は、
「今日は、豆腐が売れなかったのかな」
と言いながら松明をともし、妻を迎えに行った。
道の途中で妻に会うと夫は、
「豆腐が売れ残っても、明るいうちに帰って来い」
と、怒ったように言った。妻は、
「はい、はい」
と嬉しそうに答えた。
夫の迎えを楽しみにしていたのである。
ふたりは、仲良く並んで識名坂を登り、家へ向かった。
夫は、働き者で美しい妻を愛しく思い、とても大事にしていた。
ある日、妻は、夕方になってやっと豆腐が全部売れたので、夫の迎えを楽しみに家に向かって歩き出した。
ところが、いつもの所に来ても夫の松明の火が見えないので、
「どうしたのかな、用事でもできたのかな」
と、思いながら足早に歩いていた。
その時、道の途中、男とすれ違った。
男は、いつも夕暮れに首里から識名に向かって歩いて行く、この美しい妻に目を付けていた。
![](/shurijo/shuri-aruki/folklore/assets_c/2015/04/sikina2-thumb-1500xauto-1018.jpg)
「今日は、ひとりだな」
そういうと、男は妻に襲いかかった。
しばらくして我に返った妻は、男の力に負け身を守れなかったことを嘆き、慄き、金城橋から身を投げた。
義理堅く、夫をとても愛していたので、そうするしかなかった。
「身投げだぞー、女が川に飛び込んだぞ」
人々が騒いでいる所に、松明を持った夫が来た。
そして、ことの有様を聞き、川に飛び込んで死んだのは、愛しい妻だと知った。
「いつもどおりに、自分が来ていれば」
夫は嘆き、川を覗き泣いた。
そして、人々が、止める間もなく川に飛び込んで死んでしまったそうだ。
それ以来、識名坂では夜になると、ふたつの遺念火(火の玉)が並んで出るようになったらしい。
遠くから見ると、ふたりが松明を持って仲良く歩いているように見えるらしいよ。
これが識名の遺念火の話です。
監修:NPO沖縄伝承話資料センター