鬼餅由来 (むーちーゆらい)
昔むかし、首里の金城(カナグスク)に、兄と妹が暮らしていた。
兄は乱暴者で、畑を荒らして村の人達に迷惑ばかりかけていた。
そして、妹が嫁に行き、ひとりで暮らすようになると、牛や馬を盗んで食べるようになり、とうとう人間をも食べる鬼になってしまった。
鬼になった兄は山の中で暮らすようになった。
妹は、兄が鬼になったという噂を聞き、「どんなに乱暴者でも、兄さんが鬼になるはずはない」と思って、自分の子どもを連れ、様子を見に行った。
山の小屋に着くと、妹は、
「兄さん、私はこのような丈夫な子を産みましたよ」
と声をかけた。
「そうかい。
それはいいことだ、中に入れ」
と、妹と子どもを小屋に入れると兄は、
「どれ、どれ、子どもをこっちによこせ、若いのは薬だ」
と言った。
妹はとても驚き、兄さんはやっぱり鬼になってしまったんだと思った。
そしてすぐに、子どもの腕をつねって泣かせた。
「兄さん、この子はおしっこをしたがって泣いているから、おしっこをさせてくるね」
と言うと、
「そこでさせろ」
と鬼が言った。
「いいえ、この子は家の中でおしっこをさせたことがない。外でするようにしつけているから外でさせてくるね」
と言うと、鬼は、
「ちょっと待て」
と言って、縄を出し、妹の手首を縄でしばり、もういっぽうを自分の手首にしばりつけた。
それから、
「さあ行って来い」
と、ふたりを外に出した。
妹は外に出ると、手の縄をはずして近くの木にくくり、子どもを連れて、急いでそこから逃げ帰った。
家に帰った妹は、
「人を食う鬼になったというのは本当だ。私がなんとかして退治しないといけない」
と思った。
「そうだ、兄さんの好きだったムーチー(月桃の葉で包んだ餅)を作ろう」
と考えた妹は、自分が食べるものは普通のムーチー、鬼に食べさせる餅は、瓦を入れたムーチーを作って鬼に会いに行った。
妹は鬼を呼んで、
「きょうは兄さんの好きなムーチーをたくさん作ってきたよ。天気も良いから外で食べよう」
と言って、金城の崖の上に誘い出した。
そして妹はムーチーをおいしそうに次々と食べた。
鬼のムーチーには瓦が入っているので、いくら鬼でも普通のムーチーのようには食べられない。
「お前はこんな堅いムーチーをどうしてそんなに早く食べれるのか」
といった。
妹が、
「今日のムーチーは鬼を退治するムーチーだから、鬼は食べられないさ」
と大きな声で言うと、鬼は後ずさりし、逃げようと振り向いた途端に崖から真っ逆さまに落ちてしまった。
このようにして妹は、鬼をムーチーで退治した。
それは、十二月八日のことだった。
そのことがあって沖縄では、毎年十二月八日に鬼を退治したことにちなんで、子どもが強い子になるように、子どもの健康と幸せを願いサンニン(月桃)の葉に包んだムーチーを作るようになった。
そしてそれを、おにムーチー(鬼餅)と言うようになったんだよ。
鬼を退治した場所が今も首里の金城にあって、御願所(ウガンジョ)もあるよ。
監修:NPO沖縄伝承話資料センター