首里城2026年マチカンティー

首里城と妖怪 ─ (後編)


8月はマジムン(妖怪)が出やすい時期と信じられていました。別名「ヨーカビー」といわれて、「妖怪日」と書く場合もあります。この時期、ゲーンというススキで作った魔除けを作り、玄関に挿しておくといいとされています。興味深いのは、首里城でもやっていたということです。『琉球国由来記』(1713年)によると、時之大屋子という役職が、夜を徹して城内をバッチリ監視していました。ところで、この時之大屋子という役職ですが、日や時刻を占う仕事をしていました(『沖縄大百科事典』より)。昔は何かをする時は、良い日を選ぶということが重視されますので、専門の役職があったわけですね。どうやら、18世紀まではあったようです。

角川学芸出版『琉球国由来記』編著外間守善 波照間永吉
角川学芸出版『琉球国由来記』編著外間守善 波照間永吉

さて、彼等にはこの時期、別の仕事がありました。それは前回紹介したゲーンを準備する事です。ゲーンとは、呪具の一種で、ススキの先をクルリと結んだもの。桑の茎を巻き付けて完成というシンプルな作りです。琉球の古語辞典『混効験集』(1711年)によると、ゲーンは、植物のススキのことを意味したようです。材料も作り方もシンプルな呪具。実はとんでもなく強力なものでした。首里城で使うゲーンは、原料となるススキを採る場所が限定されます。現在の南風原町兼城。兼城のススキ3束、桑の枝3束、それぞれ90センチほどを採ってきます。これでゲーンを作っていました。首里城の正殿の前にある御庭(うなー)という広場がありますが、真ん中を通る浮き道に、ゲーンを置いておきます。国王側近がこれを受け取り、まず国王にお目にかけます。そして首里城や、中城御殿(世継ぎの住まい)、聞得大君御殿(女性祭司組織のトップの住まい)などに持っていって挿していました。いずれも細かい場所は不明ですが、通常は門や建物の軒と思われます。

琉球最強伝説のゲーンの故郷、南風原町兼城にある按司墓と首里城正殿前のウナーに走る浮き道
琉球最強伝説のゲーンの故郷、南風原町兼城にある按司墓と首里城正殿前のウナーに走る浮き道

どうして南風原の兼城なのでしょうか。『琉球国由来記』からご紹介します。「昔、兼城按司に16歳になる娘がいました。ところが8月に急死してお墓に葬りました。3日後、安平田という人物が、そのお墓の前を、牛を引いて差し掛かったところ、急に雨が降って来ました。お墓の陰で雨宿りをしていますと、墓の中から手が伸びて、安平田のマゲをつかみました。驚いた安平田が「あなたはどなた?どうして私をつかまえるのだ」と声を上げました。すると「私は兼城按司の娘です。寝ている間に、間違ってここに葬られたのです。すみませんが、わたしの家に知らせてください」という娘の声。安平田は、急いで兼城按司の家へ知らせました。按司の家では、葬儀の真っ最中でした。安平田事の成り行きを知らせると、葬儀にいた霊能者が、ゲーンを持っていき、妖気をはらい、無事娘を連れて帰ってきました。霊能者は、その晩も妖気が残っていることを恐れて、高い所に登って、一晩中見張ったので何も起きなかったと伝わります。このことが伝わり首里城、やがて民間に至るまで、8月にゲーンを挿す風習が広がった…といいます。なるほど、だから王府御用達のゲーンは南風原の兼城のススキなのですね。

特別に許可をいただいき兼城のススキから作ったゲーン
特別に許可をいただいき兼城のススキから作ったゲーン

ところで、私が小さい頃まで、ヨウカビーの風習は、当たり前に残っていました。首里金城町出身の祖母から、この日に限っては「ホーチャク(爆竹)を鳴らしなさい」とお小遣いをもらいました。普段は爆竹なんてうるさくて禁じられていたのですが。爆竹は魔よけの意味があり、大きな音で、マジムンを追っ払うそうです。那覇大綱引きの時も爆竹を鳴らしますが、あの爆竹の音も、本来はマジムンを追い払うためと聞きました。祖母に聞くと、戦前までこの時期の金城町は、タマガイという火玉が出没して、首里城方面から金城町石畳方面、橋を渡り、識名坂を上っていったので、金城町の若者が寝ずに監視をしたといいます。

金城町石畳から識名坂へ続くタマガイが通る道と首里城からの夜景
金城町石畳から識名坂へ続くタマガイが通る道と首里城からの夜景

さらに聞いた話では、王国が消滅した後、戦前には、首里城南側(京の内側)には、タマガイを見ようという見物人がたくさん集まって、ワイワイとにぎやかで、全然怖くなかったそうです。まるでイベントのような感じでしょうか。現代では首里城祭で夜のイベントもあります(2023年2月現在休止中)。私のおすすめは「万国津梁の灯」です。万国の架け橋となり、平和を願う光のイベントも復活が待ち遠しいですね。

首里城祭での「万国津梁の灯」守礼門にて
金城町石畳から識名坂へ続くタマガイが通る道と首里城からの夜景
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