ホーム > 首里城復興へのあゆみ > 首里城2026年マチカンティー > 若手職人インタビュー #10
―現在のお仕事を始められた経緯と、首里城正殿復元工事に携わることになったきっかけを教えてください。
高校までは地元の読谷村で普通科の高校に通っていました。卒業後の進路を考えたときに、最初は体育の先生か美術の先生かで迷っていたんですが、高校の美術の先生が沖縄県立芸術大学出身で、「芸大楽しいよ!」と勧められたこともあり美術の先生を目指すことにしました。芸大のオープンキャンパスで漆芸の教授から漆のことを教わるうちに興味が湧いて、芸大の美術工芸学部で漆を学ぶことにしました。
漆というと赤や黒のイメージが強いんですが、元々は茶色っぽい樹液の色をしていて、そこに顔料を入れて色を作るんです。酸化鉄やカーボンなどの素材を混ぜていろいろな色を作れて、自分が好きな色の「青」も作れるということを知って「めちゃめちゃ楽しそう!」と思ったんです。あと教授から、漆芸分野は男子が少ないからスーパースターになれるよって言われたからというのもちょっとあります(笑)
卒業後は県内で漆を専門にしている「浦添市美術館」で半年弱ほど勉強しながら作品を展示させていただいたり、那覇市の「ホテルアンテルーム那覇」で個展をやらせていただいたりしつつ、同じ時期に首里城の券売所がある「広福門(こうふくもん)」の修復に携わりました。県立芸大の非常勤講師もやりつつ、「株式会社漆芸工房」に所属して、そこからずっと首里城の塗装作業に入っています。
―首里城の火災が発生したときにはどちらにいらっしゃったのでしょうか?
たしか大学2年生のときで、芸大祭の直前だったと思います。芸大祭の準備で当蔵と崎山のキャンパスを行ったり来たりして、そのまま実家へ帰っているときに夜中みんなから連絡が来ていて、テレビをつけたら首里城が燃えてる!って。びっくりして頭の中が真っ白になったことを覚えています。
ちょうど琉球漆芸について授業を受けている時期で、財団の方たちもいろいろ教えに来てくださっていて、火災の翌週ぐらいにはみんなで首里城の内部を見学して回る予定だったんです。その目前に焼失してしまい、見たかったものがもう見れなくなってしまったということがとても残念でした。
芸大生にとって首里城はあたりまえにそこに在るものというか、友達と話しながら授業の合間に見たり散歩していたりした場所だったので、すごく悲しかったですね。
―復元工事に携わることになって、ご家族や友人の反応はいかがでしたか?
自分の親族や周りにはあまり芸術系や工芸専門の方がいないので、いま首里城の復元工事に携わっていると言うと「すごい!」と喜んでくれますね。
ちょうど今朝(取材時)、新聞に復元工事の記事が載っていたみたいで、おばあちゃんからメッセージが来ていて「とても誇らしいです」と言ってもらえたのがすごく嬉しかったです。
―現在はどんな作業を担当されているのでしょうか?
入母屋(いりもや)の瓦座と、切裏甲(きりうらごう)の塗装作業をやっています。
木をならして、生漆(きうるし)と呼ばれる生の漆を吸わせて木を強化する「木地固め(きじがため)」をした後は、もう研いで塗って研いで塗っての繰り返しになります。漆は温度と湿度で固まるので、あまり湿度が高いといきなり固まろうとして縮んでしまったりするので、そのときそのときで調整した漆を使っています。
別の場所で漆の調整をしてもらっているんですけど、乾きにくくするための漆と普通の乾く漆をミックスしたりして、ここの現場の湿度でいい感じに固まるよう配合をお願いしています。
通常、漆は刷毛で塗っていくんですが、器物と違って首里城は大きすぎるので、ローラーで大まかに塗った後に刷毛でならして仕上げていくような感じです。
―作業する上で難しいのはどんなところでしょうか?
現場ではいろんな職人さんが同時に作業していて、その中で自分たちも漆を塗っていかないといけないので、どうしてもホコリやゴミがちょっと怖いなというのがありますね。もちろん最大限の努力はするんですけど、どうしても外からの空気も入ってきたりするので難しいところではあります。
あとはできるだけ刷毛目が目立たないように塗っていくんですけど、やっぱり首里城は大きすぎて幅も広いので、たまに難しいなというときがありますね。足場も斜めだったり、すごく不安定な場所にあるので気をつけながら作業にあたっています。
大学4年生のときに教授から「首里城の復元に興味ないか?」と声をかけてもらっていたので、それを見据えて卒業制作では何百枚と板を塗って組み合わせた大きな作品を作ったんですけど、想像していた以上にもうサイズ感がすごすぎて。練習したつもりが全然練習にはなってなかったですね。
―現場の雰囲気はいかがですか?
これまであまりこういった「現場」と呼ばれるような場所に入ったことなかったので、他の職人さんたちがいかつく見えて最初はちょっと怖いなと思っていたんですけど、話しかけてみたらけっこう皆さんフレンドリーで。想像していた何倍も明るい雰囲気の職場です。同年代の方も多くて、これは沖縄あるあるですけど、話してみると友達の友達だったりして。
あとは芸大の同期も一緒に作業に入らせてもらっているので、すごくやりやすいというのはありますね。
―最後に、首里城正殿復元作業にかける思いをお聞かせいただけますか?
自分たちが作ったものがこの先ずっと残っていくことになるので、細かいところも丁寧に仕上げていきたいなというのがあります。これだけ大きいと、やり遂げたときの達成感も絶対あると思うのでそれも楽しみですね。
あとはこの首里城正殿が出来上がることによって、沖縄の漆業界も盛り上がると思っています。沖縄の伝統工芸でいうと、やっぱりやちむん(沖縄の焼き物)や琉球ガラスが強いじゃないですか。でもそこに並ぶぐらい漆を持っていけるんじゃないかって。そのための要素のひとつとしても、沖縄のシンボルである首里城の存在は大きいと思います。漆の存在感を示すためにも、ひとつひとつ、きっちりとした仕事をしたいです。
取材日:2024年9月18日
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