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有限会社 島袋瓦工場:https://www.simabukurokawara.com/
―今回の正殿復元事業に携わることになったきっかけを教えてください。
以前はまったく別の職種でルート配送の仕事をやっていたんですが、やっぱり技術的な仕事というか、ちょっと人と違う仕事をしてみたいなという気持ちがあったんです。それで、叔父の知り合いに瓦職人をやっている方がいたので紹介してもらって、そこから瓦の世界に入りました。
最初は「瓦屋さんってなに?」というところからのスタートだったんですけど、親方の手伝いをしながらイチから仕事を学ばせていただいて。その後、島袋瓦工場に入社しました。
仕事場が屋根の上なので、当初はちょっと怖いなという気持ちと楽しいという気持ちが半々だったんですけど、仕事に慣れてきたら漆喰を塗る作業がすごく楽しくて、今はそれを極めていけたらなと思っています。
島袋瓦工場は2019年の火災以前から首里城工事に携わっていたので、その流れもあって今回の現場にも会社からチームで入らせていただいています。
―首里城の火災が発生したときにはどちらにいらっしゃったのでしょうか?
たしか自宅で寝ていた時だったと思います。それで「首里城が燃えてる!」って家族に叩き起こされて。実はその前年に、正殿の近くにあった『二階御殿(にーけーうどぅん)』の工事を担当していて、工事が終わってちょうど1年経ったかなというタイミングでの出来事だったので本当にショックでした。その二階御殿も残念ながら火災で焼失してしまいました。
ものすごくショックではあったんですが、もし建て直すとなったら自分たちがやれるように準備しておこうと、そっちのほうに気持ちが動いていたことを覚えています。周りの人たちは「再建はもう無理だよね」「材料もないしね」みたいな話をしていたんですが、自分は「いや、大丈夫」って思っていました。きっと大丈夫だって。依頼が来たらすぐやるぞ!という、前向きな気持ちに早い段階で切り替わっていましたね。
―復元工事に携わることになって、ご家族や友人の反応はいかがでしたか?
もう、家族みんな喜んでます。妻の両親までとても喜んでくれていて。自分のことを知っている人たちは、会うたびに「もう工事に入ったの?」って声をかけてくれますね。
島袋瓦のネームが入った作業着姿でコンビニに入ったら、知らない方から「島袋瓦の人だね!首里城に行かないの?」って聞かれて「もう工事に入ってますよ」って答えたりして(笑)みんなに「がんばってよ」って言ってもらえるのは、すごく嬉しいです。
やっぱり沖縄で瓦の仕事をやっていたら首里城はいちばん格式高い現場だと思うので、そこはちょっと誇らしいですね。
―現在はどんな作業を担当されているのでしょうか?
現在は上層屋根の漆喰の下地塗りをやっています。まず瓦の両サイドを漆喰でしっかり固定してから、さらに瓦と瓦の繋ぎ目に漆喰を塗っていくという作業になります。
通常、サイドと繋ぎ目は同時に塗っていくことが多いんですけど、首里城の場合は下地塗りの後に中塗りが入って、最後は仕上げ塗りと合計3段階で漆喰を塗っていくことになります。3回も重ね塗りするというのは一般の工事ではほとんど無いことなので、首里城ならではなのかなと思います。
それぞれの段階で使う漆喰は同じものなんですけど、下地はセメントと砂の割合が多くて、モルタルに漆喰を混ぜたような配合で強度を出しています。中塗りではセメントを白に変えて色を白っぽくして、砂もちょっと減らして。仕上げではさらに砂を少なくして油も入ります。油を入れることで、撥水だったり苔が生えにくくなったりするんです。
この現場は素屋根の中なので仕上げの漆喰は黄色みがかった色なんですが、工事が終わって素屋根が解体されて日光が当たると、だんだん黄色みが抜けて真っ白になっていきます。
―作業する上で難しいのはどんなところでしょうか?
そうですね、通常の現場だと夜中に雨が降り、瓦がほどよく湿って漆喰が塗りやすくなるんですが、ここは建物で覆われていて瓦が乾燥しているので、漆喰を置いた時点で水分だけを吸収して漆喰がボロボロに固まってしまうんです。なので、噴霧器で瓦に水を撒きながら漆喰を塗っているんですが、それでもやっぱり吸い付きが良すぎて塗りにくくて。そこがちょっと難しいところです。
以前、『世誇殿(よほこりでん)』の新築工事で入ったときも素屋根の中で同じような状況だったんですが、何度やっても難しいですね。
あとは、首里城は漆喰を3回塗りするので、仕上がりが「ハの字」に開いてしまわないよう最後までしっかり塗り込んでいくというのも気をつけています。あまり漆喰が太いとみっともないですし、墨を打った(仕上がりの)ラインを越えてしまうので、そうならないよう微調整しながら。仕上げ塗りでは、なでる作業、押さえる作業も入ってくるので、下地や中塗りと比べると倍ぐらい時間がかかってしまいますが、時間がかかるぶん、きれいに仕上がるとすごく楽しいです。
―その他にも通常の現場とは違う、首里城ならではの特徴はありますか?
現在の作業に入る前に隣の木材倉庫内で屋根のモックアップ(模型)を制作したのですが、それも首里城ならではだと思います。実際と同じ寸法、同じ造りで一部を切り取ったような屋根を作って、勾配や角度などを確認しながら、どういうふうに瓦を置いていくかシミュレーションしました。通常の現場だと工場内にちょっとした屋根を作って確認することはありますが、それなりに費用もかかってしまうので、ここまでしっかりとしたモックアップを作るというのは他ではなかなか無いと思います。
―現場の雰囲気はいかがですか?
基本的には、島袋瓦から一緒に来ている気心の知れたメンバーと仕事をすることが多いんですが、つい先日までは福岡県から来ていた職人さんとも一緒でした。熊本城の瓦工事も行った方なんですけど、すごくフレンドリーでいろんな話を聞かせていただいて、楽しかったし勉強にもなりましたね。他の業者の方たちも気軽に声をかけてくれるので、楽しい雰囲気でやらせていただいてます。
―最後に、首里城正殿復元作業にかける思いをお聞かせいただけますか?
沖縄県はもちろん、県外や海外からも首里城の復興が期待されていると思うので、その人たちの想いを裏切らないよう、まいにち一生懸命、漆喰と瓦に向き合っていきたいです。
今、1歳半の子どもがいるんですけど、その子たちが大きくなったときにもずっと美しい首里城で在り続けるように。「これ、お父さんがやったんだよ」って胸を張って言えるような、立派な仕事を残したいと思っています。
取材日:2024年9月17日
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